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まちを動かすのは誰か?

まちづくり

まちを動かすのは誰か?
まちづくりにおける活動の原動力を探ってみた。

はじめに 「都市計画」と「まちづくり」
都市計画とまちづくりは異なるものか?

都市計画は、都市に必要な規制、誘導、整備を行い、都市を適正に発展させようとする方法や手段とされる。都市計画法第二条において、都市計画について次の記載がある。

「都市計画は、農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきことを基本理念として定めるものとする」

ここで、着目すべき点は、
・健康で文化的な都市生活
・機能的な都市活動を確保
であり、都市の活動の主体は人であることは言うまでもない。

一方、「まちづくり」と言う言葉は、法的に定義されていない。
佐藤滋(都市計画家、地域プランナー、早稲田大学理工学術院教授)は次のとおり定義している。

「まちづくりとは、地域社会に存在する資源を基礎として、多様な主体が連携・協力して、身近な居住環境を漸進的に改善し、まちの活力と魅力を高め、生活の質向上を実現するための一連の持続的な活動である」

これらから、都市計画が都市に住む住民に配慮した行政主体の規制、誘導、整備であるのに対し、まちづくりは、地域社会の主体が連携してまちの活力や魅力を高める活動と位置づけられ、都市計画はハード面、まちづくりはソフト面を主に担うものと解釈でき、時にはハード、ソフト両面を含めて「まちづくり」と拡大解釈されることもある。

一方、まちづくりという言葉は、下記に示すとおり都市計画行政に対抗する運動で生まれた言葉と言われている。ところが、現代では政府や行政もまちづくりという言葉を政策に活用し、住民主体のボトムアップというポジティブな印象を持つ言葉として定着している。

「まちづくりという言葉は、トップダウン型の都市計画行政に対抗する運動のなかで、参加の側面を色濃く持つ言葉として用いられてきた。住民と自治体政府・議会が住民の参加を前提とする「まちづくり」という言葉を生み出すことで、住民の自治に支えられた独自の政策判断の余地拡大を図ったと解釈することができよう。」
出典:まちづくり条例の実態と理論-都市計画法制の補完から自治の手だてへ-内海麻利 著

都市計画は行政が(最低限の)規制、誘導、整備を図る一方で、まちの活力を持続させていくためには、地域の継続的なまちづくりへの取組みが必要とされている。このことは、H.ガンズ「可能環境と実効環境」(1958年)が示す「物的環境が整備されても、実効環境に変化しない限り、人間の行動に影響を与えることはない」という物的環境の限定効果論にもみることができる。
また、「操作しうる環境あるいはその諸要素である可能環境は計画者による想定であり、想定はしばしば裏切られる」という言葉のとおり、地域住民の主張や主体性の発揮によって初めて与えられた物的環境に評価が下される。
なお、計画者(行政)が重視する価値と、利用者(地域住民)のそれが乖離するほど「不適合利用」(nonconforming use)が増えるとされ、利用者は環境を読み解き、まちの活力や魅力をつくり出す力を備えていれば、自分達なりのアレンジが可能となる。

仮にまちづくりにPDCAサイクルが回っていれば、計画者にフィードバックされるはずであるが、計画者による可能環境の提供にあたっては、利用者に過度な期待を抱かないという冷静な視点を持っているようである。
親離れして独り立ちして欲しいという親の心境のようであるが、利用者の主体性を引き出すためには別の何かが必要であろう。
都市計画とまちづくり。親の教育計画と子の独り立ちのような関係に見えてくる。

このように、まちづくりにおいては、主体性やその原動力が非常に重要となることから、本稿においては、「まちづくりにおける活動の原動力」を取り上げ、「いかにしてコミュニティはまちづくりに主体性を発揮するか」について事例を踏まえて分析する。本稿の構成は次のとおり。

1.コミュニティへの参加動機
2.地域で活動する主な団体
3.コミュニティの活動領域
4.コミュニティにおける専門性
5.自主性を発揮するコミュニティの事例
6.事例から得られたこと

1.コミュニティへの参加動機
(1)「コミュニティ」の定義
「コミュニティ」は一般的にイメージでは理解できているようであるが、言葉で定義しようとすると難しい。

「コミュニティ」は、日常で使う分には便利だが、執筆者泣かせの用語である。それでも、社会学者はこの言葉を重視してきたし、苦心して定義を試みてきた。
都市社会論 社会学におけるコミュニティ研究 祐成保志(東京大学准教授)

コミュニティとは、地域など範囲を示す言葉でもなく、単に地域に居住する人の集まりを示す言葉でもなく、着目すべき要素は「共同性」である。
『現代社会学事典』(2012年)玉野和志

玉野はコミュニティを「人と人との間に存在する基底的な共同性」と定義した。
この定義はとても理解しやすい。

(2)コミュニティへの参加動機
コミュニティの定義から、コミュニティ形成に不可欠なものは「共同性」である。アバークロンビーらのコミュニティの定義においては「共通性」に言及しており、「自分と共通点を持つ者」からなる集団に属しているという感覚をもつとき、その人はコミュニティの一員であるとされる。
共通点を持つ者とは「自分と似た誰か」であり、共通(類似)点は、例えば祖先を同じくする(血縁)とか、同じ地域に住んでいる(地縁)とか、同じ嗜好を持つ(趣味縁)といったようにさまざまである。
いずれにしても、その共通性は絶対的なものではなく、お互いの了解にもとづいた相対的なものであるといわれ、お互いが共通性をどの程度重視するかによって関わり合いは変わってくると考えられる。また、地域性は、数多ある共通性の一つでしかないというように、同じ場所に住んでいることをお互いが認識したとしても、その場所が好きであるとか、同じ悩みを抱えているといった共通点を分かち合うきっかけに過ぎない。

つまり、「共同性」と「共通性」は似て非なるものであり、「共通性」は客観的な観察から本人の意思とは関係なく取り上げることはできるが、「共同性」は当事者の主体性によって確立されるものであるといえる。このことから、人と人との間に存在する基底的な共同性をコミュニティと呼ぶのであれば、コミュニティに属する人々には共同性に発展する参加動機があると考えられる。

コミュニティへの参加動機は次のようなものがあると考えられる。これはSNSにおいても同様であると考えられる。
①自己実現、自己の成長
②使命感、貢献欲求、承認欲求
③価値観の一致、賛同、共感
④興味、関心、好奇心
⑤参加者への興味、魅力的な人物の存在
⑥居場所の確保、人との繋がり
⑦団結による課題解決

これらは自発的な動機であるが、勧誘や義務感など非自発的な参加も考えられる。
また、コミュニティには目的があり、「参加者が共通する若しくは各々の目標を達しするため(参加動機を満たすため)に共同して持続的に活動すること」とであると言え、さらにコミュニティには強い目的を持ったリーダーが不可欠であるともいえる。

例えば、アニメ「ワンピース」の海賊「麦わらの一味」はそれぞれ異なる個人的な目的を持っているが、船長に魅了されて集まり、船長の目的が達成されるときは、みんなの目的も達成されるであろうということで、海賊というコミュニティを形成して、世界を冒険している。

コミュニティの三要素は?
これについて提唱する者は少なくないが、前述の内容を踏まえると、「参加動機、共通目的、リーダー」の三つは不可欠なものであろう。

2.地域で活動する主な団体
一般的に認知されている地域で活躍するコミュニティについて、その目的や背景などを整理する。
①地域運営組織(自治会・町内会)
・成り立ち
町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体
・目的
区域の住民相互の連絡、環境の整備、集会施設の維持管理等、良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うこと
~自治会・町内会等とは~総務省資料より

②まちづくり団体(まちづくり会社、社団・財団法人、特定非営利活動法人、任意のまちづくり団体等)
・成り立ち
戦後の復興による大都市への人口集中、急激な高度成長によってもたらされた公害や生活環境の変化など、解決しなければならない問題が増えていた時期に、これらの問題の解決を自治体任せにせず、住民自らが声を上げようという動きが見られるようになったことに始まり、国や自治体、デベロッパーだけでなく、住民・市民組織やNPO、多様な規模の企業群や大学をはじめとする研究機関がそれぞれの得意分野を活かして地域に参入している。
・目的
身近な居住環境を改善し、地域の魅力や活力を高める活動を行うこと。

③地域福祉活動団体(社会福祉協議会等)
・成り立ち
行政関与によって戦前から戦中に設立した民間慈善団体の中央組織・連合会およびその都道府県組織を起源とする組織で、社会福祉事業法(現在の「社会福祉法」)に基づき設置
・目的
民間の社会福祉活動を推進することを目的とし、地域の人びとが住み慣れたまちで安心して生活することのできる「福祉のまちづくり」の実現をめざしたさまざまな活動を展開

①自治会・町内会はその地域の運営全般を担っているが、②まちづくり団体や③地域福祉活動団体はそれぞれ専門的な領域の範囲内で活動いている。①は半強制的の印象があるが任意団体であり、地域の秩序を保つことに協力するという意思表示も含めて参加するという意味合いが強いが、②③は問題意識を持つものが集う団体である。

3.コミュニティの活動領域
最も古くから地域に根付いている自治会・町内会は活動の領域が広範囲であったが、まちづくり団体や地域福祉活動を行う団体の出現により、専門領域の分業が進んでいるとみられる。このことは、半強制のような受動的な立場で自治会・町内会に参加する者にとっては、好都合かもしれない。
一方、「まちづくり」や「福祉活動」はある程度の専門性を持った担い手若しくは主体性を発揮できる参加者を必要とする。しかし、その人材が地域で確保できるだろうかという疑問に直面する。

出典:総務省資料


4.コミュニティが求めるもの
コミュニティが継続的に活動していく上での課題において、行政や専門家に期待するものは何か。
これについては、下図のとおり総務省の資料で整理されている。

出典:総務省資料/公共私の連携(地域コミュニティを支える取組)について

やはり、地域には「人材不足」という大きな課題があることを取り上げており、専門家の「専門能力」と行政による「活動資金」に期待を寄せていることがわかる。
しかし、どこか他力本願的に見えてしまうのは私だけだろうか。

裏を返せば地域に「課題解決能力を有する特異な人材」がいて、「活動資金」が得られれば継続的に活動は可能であると見ることもできる。「専門性を発揮して地域に貢献したい」という動機を持つ者、「専門性は無いが地域を良くしたい」という強い目的意識を持つ者(リーダーシップを発揮できる者)は、高い確率で自然に出現することは考えにくいが、自然災害による被災、少子化による地域の衰退など地域が危機的状況に直面した時や何らかの問題意識が芽生えた時にはじめて、コミュニティが主体性を発揮し(取り戻し)、リーダー専門性を担う者が現れるのではないかと仮定し、事例を基に検証してみた。

5.自主性を発揮するコミュニティの事例
近年、人口減少やコミュニティの衰退を背景として、公民館が地域活性化・まちづくりの拠点として、地域の課題解決や担い手の育成に向け住民の学習や活動を支援する役割を担うようになった事例もあり、リタイア世代も含め多世代が交流し、地域の担い手の世代交代が可能な人材育成の仕組みを構築していくことが重要と言われている。

(1)事例① やねだん(鹿児島県鹿屋市串良町柳谷集落)
危機的状況+強力なリーダー
「やねだん」は1995年までは,地方都市のどこにでもある過疎化が深刻な村のひとつであり、村の人口は約300人.高齢化率は30%を超えていた。しかし、1996年に豊重哲郎氏が柳谷自治公民館長に就任して以来、大きく変化した。

出典:総務省資料 / 公共私の連携(地域コミュニティを支える取組)について

出典:やねだん(鹿児島県鹿屋市串良町柳谷集落)ホームページ

この事例において着目すべき点は、
・背景に高齢化が進む深刻な過疎化(危機的状況
・地域を牽引するリーダーの存在
・行政に頼らない「むら」おこしを目指す・・・自主財源の確保
・一人ひとりがレギュラー・・・役割を持っている(≒専門性を分担
・幼児から高齢者まで、地域活動に自主参加してもらうための土台づくり
 ~集落民一人ひとりが「レギュラー」で、「補欠」はいない~
・全国から人材を募集し、リーダーを育成
であり、総務省資料「継続的に活動していく上での課題、行政・専門家に期待するもの」で示されていた諸課題を地域の資源の活用によって解決しているところである。
最初の声を上げる強力なリーダーの出現が大きかったと考えられるが、コミュニティの存続のために全国から人材を募集をして、次世代のリーダーを育成する取り組みは他の地域でも取り入れる意義は十分にあるといえる。


(2)事例② 地域ビジネスの創出~三重県立相可高校
次に高校生による地域資源を活用したソーシャルビジネス展開により地域の課題を解決していく取組みを取り上げる。テレビドラマ「高校生レストラン」のモデルになった「まごの店」は、三重県立相可高等学校・食物調理化科の高校生が営むレストランで、高校生が学業に励みながら部活動の一環として運営している。
本事例は事例①のような危機的状況という背景とは異なり、調理師免許を取得したとしても、調理師としてやっていくのに必要な力を全て養えるわけではないという先生の問題意識が背景にあった。
そして、ほとんど100%「食」に関する道に就職する生徒たちのために、高校ではできないことが2つあるという話を先生から聞いた多気町役場の職員が「店をやったらどうか」と提案したことがきっかけとなっている。
高校生ではできな2つのこととは?一つは接客、そしてもう一つはコスト管理であった。
運営にあたっては、多気町役場やクラブ顧問の先生の力の入った指導があったと考えられるが、この店の魅力は、本格的な料理の味だけでなく、高校生たちの活気や真剣さ、社会に対する真摯な姿勢そのものと言われている。また、相可町内のスーパー内で弁当や惣菜を製造・販売する「せんぱいの店」は、「まごの店」の卒業生を中心に運営されており、「まごの店」で培った経験を社会にも生かしており、学校と地域が連携した理想的な取組みと言われている。

出典:文部科学省資料 / 地域の課題解決に貢献した事例

この事例において着目すべき点は、
・高校生の目的は調理師になること、町の目的は高校生レストランによる町おこし
高校生は町の目的に共感した
・コミュニティを牽引するのは高校生の真摯な姿勢(調理師になること、地域へ貢献)
・行政に財源を頼らない(料理人としてのプロ意識)・・・自主運営
・地域の交流人口増加、地域の人材定着に好循環(高校を拠点とした継続性)
・地域の特産品により地域を活性化(地域の愛着)
であり「課題解決能力を有する特異な人材」や「活動資金」をあてにすることなく、高校生の主体性(町おこしが成功すれば、高校生の調理師になる目的が叶う)をうまく引き出してコミュニティが機能し、地域貢献を果たしているところである。
事例①と同じく発起人の存在が大きいと考えられるが、その後は先輩から後輩へ引き継がれていくしくみが根付いているところに、やはり次世代の育成の大切さを知ることができる。

6.事例から得られたこと
本稿のテーマとして「まちづくりにおける活動の原動力」を取り上げ、コミュニティの主体性の発揮の裏にはコミュニティを牽引するリーダーや専門家の存在などが必要であると仮定して事例等を調査した。その結果、リーダーや専門家の存在は、コミュニティが主体的な活動を始動するための条件となるが、コミュニティの存続においては次世代の育成が重要な取組みであることが示された。
専門性を地域で確保できない場合、外部の専門家(よそ者)に依存するケースも想定されるが、よそ者がコミュニティの課題や理想等を正しく理解すると同時に、コミュニティはよそ者を受け入れて学んでいく姿勢が不可欠となる。

こうしてみると、コミュニティは「人と人との間に存在する基底的な共同性」と定義されているが、コミュニティが目的を果たすにはコミュニティに参加するもの同士、さらにコミュニティに関わりを持つものとの「共感」が密接に関係していると考えられる。
つまり、「まちづくりにおける活動の原動力」はある理想を実現することに対して「共感」した集団が共にモノゴトを動かそうとする力であり、これにはコミュニティに関わる人の「共感性」という能力が不可欠であると考える。これはビジネスであったとしても同じである。

きっかけとしての「共通性」+原動力となる「共感性」→構築されるコミュニティ「共同性」
という図式で示すとわかりやすいかもしれない。

<まとめ>
まちづくりにおける活動の原動力~まちを動かすのは誰か?
・理想の実現に共同するた者たち
いかにしてコミュニティはまちづくりに主体性を発揮するか?
・危機感や問題意識をきっかけに共感した集団がリーダの下、行政に頼らず自分たちでやると共同することによって