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南池袋公園~広い着席スペースで幅広い年代の人が滞在しやすい空間~

レポート

1.南池袋公園のパークマネジメントの概要
(1)南池袋公園の概要
都心の駅近に広がるオープンスペース。南池袋公園は私の好きな公園の一つだ。
2016年4月に開園した南池袋公園は、園内のカフェレストランを民間事業者への使用許可により運営するとともに、公民連携によるイベントを展開し、園内の一体的活用を図っている。
私自身の関心もあり、現在の南池袋公園が生まれた背景、運営状況、他へ応用性等について探ってみた。
南池袋公園の概要について以下に示す。

<南池袋公園の概要>
開園
 1951(昭和51)年 区画整理事業
 1975(昭和50)年 地下鉄有楽町線の工事に伴い再整備
 2016(平成28)年 リニューアルオープン
事業名
 南池袋公園復旧整備工事
所在地
 東京都豊島区南池袋2-21-1
用途
 公園、カフェレストラン、防災倉庫
地下空間
 自転車置場、東京電力変電所、東京メトロ有楽町線
事業主
 豊島区(管轄:公園緑地課)
計画
 総合プロデュース:ランドスケープ・プラス
 カフェレストラン企画:船場
運営
 任意団体 南池袋公園をよくする会、豊島区
規模
 敷地面積: 7,818.50 ㎡
主な施設
 芝生広場、キッズテラス、サクラテラス、カフェレストラン、多目的広場
開園時間
  8 時から 22 時

店舗等施設(*1)
建築面積:265.27㎡(3.39%>2%) / 延床面積:445.45㎡
・1階床面積:249.29㎡ 飲食店、帰宅困難者対策用備蓄倉庫、トイレ
・2階床面積:185.69㎡ 教養施設(通常時飲食店利用)、公園管理室
店舗営業:RACINES FARM TO PARK(ラシーヌ・ファーム・トゥ・パーク)
総席数:110席

建蔽率の緩和(*2)
・2階フロアを都市公園法に基づく教養施設として位置付けることで、建蔽率を緩和
飲食店の運営の許可(*2)
・都市公園法に基づく「公園管理者以外の者が管理する公園施設」として同法第5条第2項に基づく設置管理許可によって飲食店を運営。協定期間は10年間。(建物の建設は区、内装と管理は事業者が実施)

維持管理経費:年間1,000万円の黒字(*2)
<歳入>年間約3,800万円
・建物使用料:約1,930万円
 固定定分:約1,230万円(月額約100万円)
 歩合分:約700万円 月額利益のうちの1,700万円以上の利益の10%分。
・地下占用料:東京電力:約1,520万円、東京メトロ:約350万円
<歳出>年間約2,800万円
・芝生・低木の維持管理経費:約2,300万円
・閉園に伴う警備委託費(午後7時から午後10時):約300万円
・遊具の補修ほか維持管理経費:約200万円

工事費…約1億6千万円の支出(ほぼ建物工事費分に相当)(*2)
<歳入>約4億2千万円
・東京電力地下変電所工事に伴う復旧費 約2億9千万円
・みどりの基金積立(変電所工事占用料)約1億3千万円
<歳出>約5億8千万円
・公園工事費 約4億円
・建物工事費 約1億8千万円

利用者数(*3)
・公園利用者:平日 1 日当たり 1,000 人、休日 1 日当たり 2,000 人
・カフェの利用者:公園利用者の約 3 割程度
南池袋をよくする会の活動(*3)
・地域住民の参加により持続可能な公園経営を行うための運営組織(任意団体)で、月 1 回の定例会を実施。地元の商店会 1 名、自治会 1 名、寺院 3 名、学識経験者(コンサルタント)、1 名、カフェ事業者 1 名、それに区職員 2 名で構成。
その他特徴(*3)
・TOSHIMA Free Wi-Fi 無料使用可
・管理室、トイレなどのほか備蓄倉庫を備え、災害時等の帰宅困難者対策を担う施設。
・公園が区庁舎と池袋駅の中間に位置し、一時的な待避空間や情報伝達拠点を想定した設計

地下空間の利用状況(*4)

出典
無印:豊島区HP
*1:工事監査結果報告書 平成29年2月 豊島区監査委員
*2:令和元年度産業建設常任委員会研修結果報告書/草津市
*3:子どもや高齢者にやさしいまちづくりに関する調査研究(平成29年3月)/牛久市
*4:南池袋公園地下変電所の説明会について/平成21年7月 豊島区・東京電力


(2)南池袋公園のマネジメントの先進性
1)都市公園のマネジメント
南池袋公園は、設置管理許可制度(都市公園法5条)地域住民参加型の公園運営の先進事例として多くの事業体が着目している。マネジメントの先進性としては、豊島区が街中の空間にリビングの居心地を目指して公園を整備した上で、「南池袋公園をよくする会」により、レストラン事業者・周辺地域の方々と官民協働での管理を行っているところがある。

表 都市公園におけるPPPの発展系譜

指定管理制度
(地方自治法)
設置管理許可制度
(都市公園法5条)
【本事例:南池袋公園】
公募設置管理制度
(都市公園法5条の2~9) Park PFI
民間事業者の人的資源やノウハウを活用して施設の管理運営の効率化(サービス向上、コストの縮減が主な目的)一般的には施設整備を伴わず、都市公園全体の運営維持管理を実施公園管理者以外の者に対し、都市公園内における公園施設の設置、管理を許可できる制度民間事業者が売店やレストラン等を設置し、管理できる根拠となる規定飲食店・売店等の収益施設(公募対象公園施設)の設置及び管理を行う民間事業者を公募で選定可。収益施設からの利益を公園整備に還元することで、特例的なインセンティブを付与。(建蔽率、期間等)

2)マネジメントの先進性
南池袋公園のマネジメントの先進性は以下の3点である。

①事業スキーム
設置管理許可制度(都市公園法5条)に基づき、募集要項に要求水準を明記し地域に貢献する民間企業を誘致し、地域貢献・環境対策を求め、地域還元費用として売上の0.5%を下限とし、費用については出店者に提案させている。公園全体の年間収支は黒字である。

②建蔽率の緩和と公園内へのレストランの出店
施設を教養施設と位置づけることで建物の面積を増やし、賑わいの核となるにオープンスタイルのカフェレストランを併設している。

③マネジメント団体の設置とマネジメント
官民協働の組織をつくり住民が公園運営に携わる体制を整え、公園及び周辺地域に恒常的な賑わいを創出し、地域の活性化を図ることを目的としている。

なお、募集要項には、地域貢献・環境対策について要求が定められており、公園内のマネジメントのみならず、防災を含めた地域への貢献活動も求めているところも特筆すべき点である。

<募集要項より地域貢献・環境対策に関すること>
(1) 2階フロア内での地域貢献活動の開催
(2) 商店会への入会等
(3) 利用区域の清掃
(4) トイレの設置等(店舗・公園利用者も使用可能。清掃含む)
(5) 環境への配慮と公共空間の適正管理
(6) 防災イベントへの参加・協力

出典:豊島区立南池袋公園カフェ・レストラン設置管理運営業務事業者募集要項/平成27年1月 豊島区都市整備部公園緑地課

2.南池袋公園の応用性等
(1)他都市への応用性
南池袋公園の再整備は、2006年頃に東京電力から南池袋公園の地下に変電所の移設を持ち掛けられたことに始まる。公園のリニューアル工事費は、東京電力からの復旧費と占有料で賄える見込みが立ち、公園の維持管理費は、変電所と東京メトロ有楽町線の占有料を充当することが可能となったことが大きい。このため、この公園整備の財源確保については、他への応用は難しい特殊な条件といえる。

一方、区は現庁舎周辺まちづくりビジョン(2014(平成2)6年3月策定/豊島区都市整備部)を打ち出し、その後2015年4月には豊島区新庁舎が完成、池袋駅から豊島区役所庁舎へ続くグリーン大通りでは、同年10月に沿道企業および地域の方々からなる「グリーン大通りエリアマネジメント協議会」が設立されている。2016年に南池袋公園が開園するタイミングで、グリーン大通りは2016年に国家戦略道路占用事業の認定を受けており、このエリア全体の回遊性が生み出されている。南池袋公園は現在も賑わいを見せているが、公園周辺の戦略的な取り組みによって魅力的な立ち寄り場として機能していることが感じ取れた。公園のみの単独整備では集客が見込めない可能性があるため、動線や客層を調査のうえ、周辺と連携した取り組みを展開することの大切さが感じられ、この点は見習うべきことが多い。

また、運営主体となっている「南池袋公園を良くする会」は、地元関係者を中心としたメンバーで、月 1 回の定例会を実施し、民間事業者の提案をこの会で審議し、承認された後に区へ申請する形をとっている。マネジメント会社に頼らずとも地元で解決する姿勢が見受けられ、地道な活動を伴うものの、この形態は地方都市でも十分に導入可能であると考えられる。

(2)南池袋公園と周辺エリアの回遊性の形成
南池袋公園の研究事例である「中心市街地における公共空間の周辺エリアと回遊行動への影響に関する研究-南池袋公園をケーススターディとして-/都市計画論文集 53(3) 木村 希ら」によると、立ち寄り目的は、休憩、子どもを遊ばせる、食事、抜け道として利用の順に多く、滞在時間は、遊び105分、おしゃべり89分、読書79分、食事77分、昼寝77分、子どもを遊ばせる68分の順となっている。立ち寄りを促す取り組みとしては、広い着席スペースで幅広い年代の人が滞在しやすい空間であること、子供が遊べるスペースが設けられていること、周辺に公園までの距離を示す案内版を設置していること等を挙げている。また、休憩目的で立ち寄れる公共空間がエリア内の回遊行動を促進させることも指摘していることからも、公園周辺との一体的な計画が有効であることも理解できる。

(3)南池袋公園周辺の区の取組み
区は、2016年に豊島区国際アート・カルチャー都市構想実現戦略を打ち出し、南池袋公園、中池袋公園(Hareza池袋)、池袋西口公園(GLOBAL RING)、としまみどりの防災公園(イケサンパーク)の4つの公園を整備した。南池袋公園以降の公園整備の手法は、指定管理者等官民連携手法の導入や防災機能を取り入れるなどによって南池袋公園での成功を効果的に展開している。さらに、豊島区庁舎を含めた主要スポットを巡る低速電気バス「IKEBUS(イケバス)」を運行させて回遊性を拡大し、ウォーカブルなまちを推進している。

一時期までは人口減少傾向が続いていた豊島区であるが、2000年頃から人口増加のV字回復を果たし、若者や子育て世代のニーズにマッチした中心市街地整備を行い、地域と連携したマネジメント手法の導入によって、まちの活気を取り戻すことに成功している。短期的に町の様相を一変させた背景には、豊島区の危機感があったと考えられるが、先進的な取り組みを積極的に導入したところが評価すべき点である。

4公園を核にしたまちづくり
出典:国際アート・カルチャー都市 実現戦略推進事業/2020年4月 豊島区             

イケバスルート
出展:豊島区HP

出典:豊島区都市づくりビジョン改定版-都市計画に関する基本的な方針-(令和3年4月)

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