技術士二次試験 筆記試験対策(その1)

技術士

30代、40代、50代と技術士二次試験を受験してきました。
それぞれの年代で受験した筆記試験は、いずれも初受験で合格しました。(総合技術監理部門は2回目)
一回の受験で合格するためには試験制度や出題文、模範解答の研究が重要となります。
これまで試験制度は変化してきましたが、現行の試験制度は令和元年度からであり、5回の試験から傾向が見えてきます。(各部門の出題傾向はご自分で過去問から一覧表などにより整理分析することをおススメします。)

まずは、「日本技術士会の「平成31(2019)年度 技術士試験の概要について」から整理します。
各設問の評価項目は、技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)が次のとおり示されています。

必須科目Ⅰ :専門的学識問題解決評価,技術者倫理,コミュニケーション
選択科目Ⅱ-1:専門的学識コミュニケーション
選択科目Ⅱ-2:専門的学識マネジメントコミュニケーションリーダーシップ
選択科目Ⅲ :専門的学識問題解決評価コミュニケーション

いずれも専門的学識とコミュニケーションは共通です。
コミュニケーションは、「業務履行上,口頭や文書等の方法を通じて,雇用者,上司や同僚,クライアントやユーザー等多様な関係者との間で,明確かつ効果的な意思疎通を行うこと。」と示されています。筆記試験においては設問の内容を良く理解し、適切に文書で表現できるかどうかということもあるかと思いますが、関係者とどのようにコミュニケーション(協議、確認、資料作成等)を取るのかというのがポイントです。

必須科目Ⅰと選択科目Ⅲは、各科目で共通する事項以外に主に問題解決と評価が問われます。(600字×3枚で解答)
問題解決は、「問題発生要因や制約要因を抽出し分析し、解決策を合理的に提案し,又は改善すること」です。
評価は、「業務遂行上の各段階における結果,最終的に得られる成果やその波及効果を評価し,次段階や別の業務の改善に資すること」と示されています。

問題解決
問題解決においては、事実、問題、課題をしっかり区別したいところです。必須科目Ⅰ及び選択科目Ⅲの1問目のポイントです。以下に具体例を示して説明します。

事実は、客観的に誰が見ても同じ。主観は入らない。
問題は、目標やあるべき状態とセットで決まる。問題は目標と現状のギャップ(ネガティブな状態)。立場により異なる。目標がなければ問題として扱う意味がない。
課題は、問題を解決するための(ポジティブな)行動ややるべきこと。


人口減少 事実
人口減少による担い手不足 問題
人口減少による担い手不足の解消 課題

人口減少が問題 × (人口減少の何が問題なの?)
人口減少が課題 × (人口減少って課題なの?)

人口減少により通勤時の混雑率が低下
→利用者にとっては問題とならない
→問題とならなければ課題にもならない

人口減少により通勤時の混雑率が低下
→交通事業者にとっては収益減少となる問題
→収益減少を避け、採算性を確保することが課題

評価
評価は、自分が行ったことや他人が行ったこと等を専門家として公平に良し悪しを判断することです。
技術士の試験においては、評価は改善とセットです。批判だけでなく改善策を示せということですね。
評価は改善策とセットなので、問題解決と組み合わせて出題されます。具体的には必須科目Ⅰ及び選択科目Ⅲの3問目において「新たに生じうるリスク」を把握し、「それへの対応策」を示すことを求めています。
この解答は難しく「そんな計画どおり、予定どおりに行きますか?」、「いろいろと課題解決を図った後、すべてうまくいっていると思いますか?」という問いに答えるようなものです。冷静に自分を俯瞰して分析する能力が必要で、設問やそれまでの解答に無いキーワードで解答を構成することに注意が必要です。(設問やそれまでの解答にあることを書くと、それは新たに生じうるリスクではなく、初めから知っていたリスクになるため。)
ここは、必須科目Ⅰと選択科目Ⅲの一番のポイントであると考えます。

技術者倫理
必須科目Iては4問目に技術者倫理が問われますが、技術士倫理綱領に基づいて問題と絡めて解答すればまず大丈夫です。

必須科目Ⅰ
必須科目Ⅰは選択科目Ⅲと設問構成が似ていますが、下記黄色アンダーラインの箇所が選択科目Ⅲと異なります。必須科目Ⅰは部門に共通する社会・環境問題等が出題される傾向にあります。

日本技術士会 ”平成31(2019)年度 技術士試験の概要について” より
<概念>
専門知識
専門の技術分野の業務に必要で幅広く適用される原理等に関わる汎用的な専門知識
応用能力
これまでに習得した知識や経験に基づき,与えられた条件に合わせて,問題や課題を正しく認識し,必要な分析を行い,業務遂行手順や業務上留意すべき点,工夫を要する点等について説明できる能力
問題解決能力及び課題遂行能力
社会的なニーズや技術の進歩に伴い,社会や技術における様々な状況から,複合的な問題や課題を把握し,社会的利益や技術的優位性などの多様な視点からの調査・分析を経て,問題解決のための課題とその遂行について論理的かつ合理的に説明できる能力
<出題範囲>
現代社会が抱えている様々な問題について,「技術部門」全般に関わる基礎的なエンジニアリング問題としての観点から,多面的に課題を抽出して,その解決方法を提示し遂行していくための提案を問う。
<評価項目>
技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)のうち,専門的学識,問題解決,評価,技術者倫理,コミュニケーションの各項目

ここでは、必須科目Ⅰの問題文の傾向から「問題フォーマット」と「解答フォーマット」を整理しました。ある程度参考になると思いますが、ポイントは事実・問題・課題の整理と新たなリスクの設定にあると考えます。

必須科目Ⅰ
必須科目Ⅰは単独でA判定を取れないと合格には至らないので、最も重視したい問題です。
(選択科目はⅡとⅢは総合評価でAとなればOK。例:選択科目ⅡがB、選択科目ⅢがAでも、選択科目総合でAとなるケースあり)
問題フォーマット
・・・・・。このような状況を踏まえ、下記の問に答えよ。
(1)技術者としての立場で、○○○に対し(上下水道に共通する/○○を踏まえて)重要な課題を多面的な観点から3つ抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、その課題の内容を示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題をその理由とともに1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を具体的に示せ。
(3)全問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(4)上記事項を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要件、留意点を述べよ。

解答フォーマット(参考) 
<1問目と2問目で解答用紙2枚、3問目と4問目で1枚の配分イメージ>
1.重要な課題の抽出とその内容
(1)○○○の観点
 ○○○において○○○は、○○○となっている。(事実、状態、背景)
 ○○○を○○○していくため(目標、あるべき姿、目的)には、○○○が問題となる(なっている)。(問題)
 このため、○○○(解消・解決)に向けて、○○○することが課題である。(課題)
 注:上記の中に観点も示す。(観点は視点、切り口、見方)
(2)○○○の観点
 (1)と同じ構成
(3)○○○の観点
 (1)と同じ構成

2.最も重要と考える課題と解決策
○○○(問題の前提条件)においては○○○が○○○となる。よって、(1)○○○を最も重要な課題と考え、以下に解決策を示す。
(1)解決策1:○○○
  ○○○の課題の課題に対しては、○○○することが解決策となる。
  具体的には、○○○、○○○、○○○がある。
(2)解決策2:○○○
(1)と同じ構成
(3)解決策3:○○○
(1)と同じ構成

3.新たに生じうるリスクとそれへの対策
(1)○○○○のリスク
 解決策を実行しても、○○○(コントロールできない要因、その先の変化等の要因、現時点で手が打てない問題、現時点では顕在化していないがいずれ問題となること、十分な効果が得られなかった場合など/注意:問題文やこれ以前の解答で取り上げたことは除く)は、○○○となるリスクがある。これへの対策としては、○○○や○○○がある。
(2)○○○○のリスク
 (1)と同じ構成

4.業務として遂行するに当たり必要となる要件、留意点<各4~5行程度>
(1)技術者としての倫理の観点
 ○○○の業務は、○○○(要件等)であることから、専門家としての力量だけでなく、公益の確保の視点に立ち、公正な分析と判断が求められる。よって、個人の主観ではなく、客観的に妥当性を検証することに留意する。
(参考文)
・公衆の安全、健康及び福利を最優先
・公益の確保の視点に立って業務を遂行 
・リスクを評価し、履行の妥当性を客観的に検証
・健康や福利が損なわれると判断した場合には、関係者に代替案を提案
・品位の向上、信用の保持に努め、専門職にふさわしく行動
・説明又は発表を、客観的で事実に基づいた情報を用いて行う。
・公正な分析と判断に基づき、託された業務を誠実に履行
・業務上知り得た秘密情報を適切に管理し、定められた範囲でのみ使用
(2)社会の持続可能性の観点
 ○○○においては、○○○(要件等)であることから、業務の履行が環境・経済・社会に与える負の影響を可能な限り低減し、地域間・世代間に不公平が生じないように留意する。
(参考文)
・地球環境の保全等、将来世代にわたって持続可能な社会の実現に貢献
・解決すべき環境・経済・社会の諸課題に積極的に取り組む
・業務の履行が環境・経済・社会に与える負の影響を可能な限り低減
・誰一人取り残さない社会の実現に配慮 
・情報格差、情報弱者を作らない 


選択科目Ⅲ
 選択科目Ⅲは必須科目Ⅰと異なり技術者倫理は評価項目から外れています。その他では下記黄色アンダーラインの箇所は必須科目Ⅰとは異なり、選択した専門分野の最新の話題が取り上げられる傾向があります。

日本技術士会 ”平成31(2019)年度 技術士試験の概要について” より
<概念>
社会的なニーズや技術の進歩に伴い,社会や技術における様々な状況から,複合的な問題や課題を把握し,社会的利益や技術的優位性などの多様な視点からの調査・分析を経て,問題解決のための課題とその遂行について論理的かつ合理的に説明できる能力
<出題内容>
社会的なニーズや技術の進歩に伴う様々な状況において生じているエンジニアリング問題を対象として,「選択科目」に関わる観点から課題の抽出を行い,多様な視点からの分析によって問題解決のための手法を提示して,その遂行方策について提示できるかを問う。
<評価項目>
技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)のうち,専門的学識,問題解決,評価,コミュニケーションの各項目


選択科目Ⅲは必須科目Ⅰの(1)~(3)の設問と問われ方がほぼ同じであることから、同様の解答フォーマットとなります。


以上、解答フォーマットは文章構成の参考という位置づけですが、専門分野のキーワードは大切ですので随所に組み込みましょう!