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海洋プラスチック問題を考える

環境

海洋プラスチック問題とは?
プラスチックはリサイクルしなければならないのか?
資源循環の観点も踏まえ、自身で収集した情報も引用しつつ海洋プラスチック問題を科学的に論じる。

1.海洋プラスチック問題
 1)国連広報センター(2017)プラスチックの海
海洋プラスチック問題に関しては、国連広報センター(2017)プラスチックの海(*1)から次の情報が得られる。

・プラスチックの「丈夫さ」は素晴らしくもあり、恐ろしくもある
・年間3億トン生産されるプラスチックの半分は一度使っただけで捨てられる
・人口が100億人に達する2050年にはプラスチック生産量は3倍になると予想される
・問題はリサイクルされているプラスチックがわずかであること
・残りは地球上のどこかで大地や海を覆う
・国境のない海に漂うプラスチックは海鳥が捕食し、体内に体重の15%も蓄積されていた例がある
・一生の間にプラスチックを飲み込んだ経験のある海鳥は90%以上に上るとされている
・海中のプラスチックの量と魚の量は2050年には同量になると予測している
・巨大なゴミ収集車が毎日海にプラスチックを捨てているのと同じ
・リユースを進め、使い捨てをやめなければならない、買物用のビニール袋は不要

このように、国連は「海洋プラスチック問題」について警笛を鳴らしている。



2)環境省(2019)プラスチック資源循環戦略
国内においては、環境省(2019)プラスチック資源循環戦略(*2)において、廃プラスチック有効利用率の低さ、海洋プラスチック等による環境汚染が世界的課題として示しており、我が国では国内で適正処理・3Rを率先し、国際貢献も実施しているとしている。一方、世界で2番目に多い1人当たりの容器包装廃棄量、アジア各国での輸入規制等の課題を指摘している。
これらを背景に、リデュース、リユース・リサイクル、再生利用・バイオマスプラスチックのマイルストーンを掲げている。

また、海洋プラスチック対策については、「ポイ捨て・不法投棄撲滅・適正処理」、「海岸漂着物等の回収処理」、「海洋ごみ実態把握(モニタリング手法の高度化)」、「マイクロプラスチック流出抑制対策(2020年までにスクラブ製品のマイクロビーズ削減徹底等)」、「代替イノベーションの推進」を重点戦略とし、プラスチックごみの流出による海洋汚染が生じないこと(海洋プラスチックゼロエミッション)を目指している。

環境省はプラスチック資源循環に全方向で取り組んでいるといえる。

3)ミッコ・ポーニオ(2018)海を救え プラスチックのリサイクルは廃⽌に
一方、ヘルシンキ大学の公衆衛生の認証専門家ミッコ・ポーニオ(2018)は論文 (Global warming Policy Foundationの報告書)「海を救え プラスチックのリサイクルは廃⽌に」(*3)において、リサイクルを廃止し、高温焼却を推奨する考えを示している。この報告では、EUの廃棄物政策が持つ、非効率性と廃棄物管理構造の問題、中国への年300万トンものプラスチック投棄とそれがもたらす海洋環境と健康へのひどい影響等について、厳しい意見が述べられている。

・国際廃棄物協会(ISWA)は海洋ゴミ危機の起源を『低所得経済から中高所得経済における陸地起源の海洋ゴミの75%は、塵芥と未収集廃棄物に由来しており、陸地起源の海洋ゴミの残り25%は廃棄物管理システム内から漏出するプラスチックである。』とまとめており、漏出の25%はエコイデオローグたちの好きなゴミ対応方式から生じている。

・埋め立て:汚染物質漏出を防ぐ厳しいルールを課し、埋め⽴て前に⾃治体にゴミの事前処理を要求している。おかげでヨーロッパでは埋め⽴て処分⽤地が激減し、それに伴い不法投棄も増⼤している。

・リサイクル:実際には、きちんと仕分けされるどころか、受け⼊れられたゴミはすべて埋め⽴てられているだけだ。それができるのは、多くの南欧諸国は埋め⽴て地指令を施⾏していないせいである。また、ゴミを洗って利⽤可能にするには⼤量の⽔が必要なので、排⽔量はすさまじい。

・高温焼却:⾃治体ゴミへの対処法として圧倒的に優れたやり⽅である。分別の必要もないため、その他ほぼすべての処理法につきまとう漏洩問題も起きない。混合⾃治体ゴミの焼却は、温室ガス排出を気にするなら圧倒的に最⾼のゴミ処理⽅式となる。これは、プラスチック包装や⽣ゴミを含む混合ゴミを直接燃やしたら、⽯炭や天然ガスを燃やす必要性は減るという単純な事実がある。それなのに、環境保護論者やEUはどちらも、焼却炉は炭素排出を増やすというまちがった主張に基づいて、頑固に焼却反対する。

・持続可能な唯⼀の道は先進国でも発展途上国でもゴミを収集して、きちんと管理された埋め⽴て地 (できれば川から遠いところ) に捨てるか、焼却することだと示している。

・ EU の新しい反焼却姿勢に妨害は、家庭や事業所がますます複雑な分別⽅式に参加するという、未来のユートピア信仰を前提にしている。

・部分的には、エコ NGO とゴミ処理企業との汚い野合にも後押しされた動きでもあり、この両者とも、混合ゴミの袋 (衛⽣的に封印されすぐに燃焼できるもの) を回収に⼀台だけトラックがくるよりも、三台のゴミ回収⾞がくるほうが好都合なのだ。

・⽪⾁なことに、少なくとも EU では、「リサイクル」されるはずだった複数のゴミの流れは、おそらくどのみち同じところにやってくる̶̶焼却炉だ

要するにプラスチックごみは燃やした方がよいと主張している。

2. プラスチックのリデュースやリサイクルの必要性
1)都市部における高温焼却
私は、現在文京区に住んでおり、ペットボトルや空き缶は資源ごみとして、それ以外のプラスチック製容器包装を含むゴミは可燃ごみとしてゴミ出しをしている。23区では多摩地域とは異なり、大量のごみに対応するため、焼却炉の技術を高めており、これにより、従来は分別が必要であったプラスチック類には分別が不要となり、ほとんど分けずに「燃やすごみ」として出すことが可能となっている。また、火力を上げる高温焼却によってダイオキシン類の発生も抑えた上に、ごみを焼却する際の熱を利用した発電なども行うことが可能としている。さらに、23区内の人口があまりにも多く、そもそも丁寧に収集したゴミを適切に分別することが困難であり、コストの高いより性能の高い焼却炉を用意することで対応している。一方で人口がそれほど多くない地方都市では、細かく分別するために人件費を回すことで、コストを抑えたごみ処理が実現可能となる。よって、都市の規模に応じて廃棄物処理に資金を投じるか人的資源を投じるかを適正に選択することが重要であり、国内の地方自治体においても同様であると考える。

2)途上国における廃棄物処理
我が国においては、廃棄物処理や再資源化は概ね機能している状況下にあると考えられるが、その前提として、ポイ捨てに対する倫理感、法整備、国民の意識の高まり、廃棄物処理における財源の確保、廃棄物処理に対する費用負担の理解等がある。大別すれば①費用負担を含む法制度、②財源、③国民の意識の3つである。

まず、焼却炉すら十分に確保できていない途上国においては、高性能の焼却炉の導入こそ夢のような次元の話である。私の専門は水道分野であるが、厚生労働省の水道分野海外水ビジネス官民連携型案件発掘形成事業で訪れたベトナム国コンダオ島の廃棄物処理場は混合廃棄物が山積みとなっており、焼却処理待ちのペットボトルが多数袋詰めされていた。現地サイドのニーズは排出量に相当する焼却能力の確保であり、廃棄物を受け入れる場所の課題(海に近いため意図せずにして風や雨などで流出しやすい)や環境汚染物質の排出問題などは関心すらなかった。観光客を受け入れる限られた土地しかない島において、廃棄物の埋め立て処分場確保は厳しい状況にあり、目の前のゴミを早く焼却処分したいという事情を理解することができたが、我々調査団は焼却炉の建設ではなく、資源分別の啓蒙活動を提案する考えに至った。しかし、相手が求めているのは差し当たっての財源や焼却炉で、制度・しくみ・啓蒙活動は時間を要するという考えがあり、そこにはギャップを感じた。

ベトナム国コンダオ島の廃棄物処理場  焼却処理待ちのペットボトル

類似例として、経済産業省のインフラシステム輸出促進調査等事業において同じベトナム国のハナム省において、新たな浄水場を建設するに際しての水源調査を実施している際に、取水候補地点における廃棄物の問題を述べる。紅河取水地点には廃棄物集積場が存在しており、調査団はハナム省に対して移転を提案したが、代替地の確保が問題となった。廃棄物集積場であるため、一時的な保管場所であるはずであるが、実情は廃棄物が放置され河川に流出している状況であった。これも廃棄物の埋め立て地の確保、焼却施設の能力に課題があり、廃棄物の流出に関しては現地では問題視されていなかった印象があった。

ベトナム国ハナム省紅河に隣接する廃棄物集積場

その他にも河川や海岸に浮遊するプラスチックごみを目撃する機会は多々あったが、そもそも国民に環境問題の意識があるのかという疑問を持ったことを覚えている。意図的にプラスチックごみを海洋投棄していなくても、焼却能力が追い付かないため、廃棄物置き場から雨や風により流出している事例は多いと考えられることから、まずは海への流出対策を講じることが先決であると考える。なお、焼却炉に限らず、途上国においては無償等で支援を受けた機器を使えるだけ使って、機能停止したら放置されているという事例もあることから、焼却炉を適正に維持管理し、更新の資金を自己財源で確保するというアセットマネジメントの概念を合わせて導入しない限り、焼却炉が壊れたらまた元に戻ってしまうという懸念もある。

このような経験から、個人的には途上国おける廃棄物問題は焼却炉の導入よりも環境意識の向上が第一であると考えるに至っている。一方、法制度や費用負担、国民への意識浸透には時間を有すると考えられ、この実現までの時間の経過の間にもプラスチックごみの海への流出は続いているという事実に対しては、別の早急な取り組み必要であると考えている。

プラスチック製容器生産抑制に対しては、生産者や使用者へ税負担の拡大が考えられ、廃棄物の自然環境への流出抑制に対しては、高温焼却技術の普及と導入費の低減が求められる。埋め立てか、リサイクルか、高温焼却かにおいては対立的な議論で人々を混乱させるのは避けるべきであり、地域に応じて適切な廃棄物処理のあり方を導入していくことが重要である。
そのような観点から、地域によってはリサイクルを必要としなくても良いと私は考える。

出典
*1:国連広報センター(2017)プラスチックの海
*2:消費者庁… 環境省(2019)プラスチック資源循環戦略
*3:ポーニオ(2018)海を救え プラスチックのリサイクルは廃⽌に