一部の記事はパスワード保護されています。X(ツイッター)の「シンシンD」をフォロー&DMで請求ください(無料)🐸

技術士の総合技術監理のイメージ

技術士

技術士の総合技術監理の概念はなかなか理解しがたいと思います。
「技術士の総合技術監理部門は各部門の延長線上にあるというわけではなく、各部門の業務履行プロセスを監理する伴走者である」と理解するとイメージしやすいと思います。
業務履行プロセスに縦串を入れるイメージです。(詳細は後述)

今回は、技術士の総合技術監理の概念を私なりに可視化してみたいと思います。

はじめに~技術士の総合技術監理
総合技術監理とは
業務全般を見渡した俯瞰的な把握・分析に基づき,複数の要求事項を総合的に判断することによって全体的に監理すること

総合技術監理が必要とされる背景は、文部科学省の総合技術監理 キーワード集 2025に次のように示されています。
<総合技術監理が必要とされる背景:要約>
・科学技術は巨大化・総合化・複雑化が進展し,恩恵も事故や環境汚染等の社会への負の影響も,従来に比して遥かに大きなものとなってきている。
・科学技術およびその利用を正しい方向へ発展させていくには,一部の専門家の努力に頼るだけでなく,企業や研究機関などの組織的活動を基盤とする不断の努力が必要。
・例として、新製品の改良の過程では,各々のフェーズでそれぞれの技術改善が行われる。それらは専門技術者の個人やチームの発想と努力によるものもある一方で,企業などの組織の視点から問題点や課題が提起されることも多い。
・問題点や課題を継続的に発見し対策を検討していくには,それぞれの問題点や課題を個別に管理するのでは追いつかない
・よって、業務全般を見渡した俯瞰的な把握・分析に基づき,複数の要求事項を総合的に判断することによって全体的に監理していくことが必要となる。
・このような背景から,そのような能力を持った人材を育成し活用を図るため,技術士のひとつの部門として「総合技術監理部門」が導入された。
・ここで「監理」という文字を使用しているのは,総合技術監理が各管理活動やその他の内容を総合して監督する概念であることを明確にするため。
・現代の科学技術はもはや一部の専門家が推進し一部の人がそれを利用するという性格のものではない。
・科学技術の行使は影響が地球的規模に及ぶ可能性があり,自らが携わる技術業務が社会全体に与える影響を正しく把握し,社会規範や組織倫理から定まる行動規範を自らの良心に基づいて遵守する高い倫理観を持った総合技術監理技術者が必要とされている。

出典:総合技術監理 キーワード集 2025/文部科学省 P1~2


1.技術士に求められる資質能力と総合技術監理の5つの管理技術
今回、技術士の総合技術監理のイメージを可視化するにあたり、技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)との関係を使いたいと思います。そこで、まずはそれぞれの概要を示します。
(1)技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)
技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)は、専門的学識、問題解決、マネジメント、評価、コミュニケーション、リーダーシップ、技術者倫理があります。
コンピテンシーの詳細は、文部科学省の技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)、過去の記事「思い出そう。技術士のコンピテンシー」を参照ください。
(令和7年度は、平成26年3月の従来のコンピテンシーに基づいて実施され、令和8年度技術士第二次試験より令和5年1月改訂版コンピテンシーを適用した試験を実施 。新旧対象表のとおり一部加筆、追加という内容です。)

(2)総合技術監理の5つの管理技術
総合技術監理の5つの管理技術は、経済性管理、人的資源管理、情報管理、安全管理、社会環境管理の5つです。総合技術監理 キーワード集 2025に、次のとおり示されています。これらは別の言い方をすれば組織のマネジメント手法ともいえます。

総合技術監理の5つの管理技術(出典:総合技術監理 キーワード集 2025/文部科学省 P3)


2.技術士の総合技術監理のイメージを可視化する
総合技術監理は、科学技術を行使して生産活動を行う組織に必要な監理技術です。
冒頭で示した「技術士の総合技術監理部門は各部門の延長線上にあるというわけではなく、各部門の業務履行プロセスを監理する伴走者である」を図化したものが下図です。


縦の項目に技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)を、横の項目に総合技術監理の5つの管理技術を示しています。技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)に関わりが強い総合技術監理の5つの管理技術を矢印で示しています。縦の矢印が技術士に求められる資質能力を指していないものは、全く関係がないとは言えませんが、関係性はそれほど高くないものとして省略しています。なお、私が独自に作成したものであり、特にどこかで整理されているものではないので、あくまでもイメージを捉えるためのものと理解ください。
ちなみに、縦の項目は技術士に求められる資質能力としていますが、他にも業務のタスク等に置き換えて作ることもできます。

図のとおり、5つの管理技術をどんな場面で発揮させるか?をイメージすると総合技術監理を理解しやすいと思います。技術士に求められる資質能力を発揮して業務履行するプロセスにおいて、総合技術監理の視点からどのようなクエスチョンを持てば良いか以下に一例を示します。なお、横の矢印は業務履行というゴールへのプロセスを示すものですが、①~⑤の5つの管理技術の縦の矢印の位置は時間の流れとは無関係です。
①経済性管理
問題解決:解決法のコストや工期の経済的に妥当?効果は本当に見込まれるか?
マネジメント:資源配分は経済的に妥当か?
評価:成果に対する経済性評価、波及効果や改善策の経済的妥当性は?客観性は?
②人的資源管理
技術者倫理:倫理や法令順守について理解しているか?
専門的学識:知識の習得のための教育はされているか?
問題解決:失敗事例共有などにより問題発生要因等を追求する意識を高めているか?
コミュニケーション:組織内外で円滑なコミュニケーションが図れているか?
リーダーシップ:利害の調整を行うスキルは十分か?
マネジメント:労務管理や人材活用は適切か?
③情報管理
問題解決:十分な情報を整理・分析しているか?情報の妥当性は?
コミュニケーション:情報を適切に共有しているか?情報漏洩なく管理しているか?
マネジメント:自部門以外の他部門とも情報共有し、調整したか?
評価:知的財産権に抵触しないか?情報として公にして良いか?
④安全管理
問題解決:安全性に配慮して十分な対策が図られているか?
コミュニケーション:事前の関係者への周知、事後の連絡体制は共有されているか?
リーダーシップ:法的に必要な申請や届出はしたか?
マネジメント:安全に対するリスクをどのように管理しているか?
評価:危機管理の視点から改善の余地はないか?
⑤社会環境管理
技術者倫理:組織の社会的責任を理解し、関係法令等の制度を確認したか?
問題解決:地域特有の社会、文化及び環境に対する影響を確認したか?
コミュニケーション:関係者と利害調整を行い合意形成できているか?
マネジメント:環境・経済・社会に与える負の影響を可能な限り低減しているか?
評価:業務履行が与える社会環境的な波及効果は何か?

というような質問によって確認する際には、5つの管理技術の様々な知識やスキルが役立つと理解しています。


おわりに
今回お伝えしたかったのは、「技術士の総合技術監理部門は各部門の延長線上にあるというわけではなく、各部門の業務履行プロセスを監理する伴走者である」ということで、これを図化してみました。
総合技術監理部門の技術士は、5つの管理技術を使って業務履行プロセス(横軸)に質問の矢印(縦串)を入れる存在である。」というの表現もわかりやすいかもしれません。(横串を入れるという表現はありますが、縦串を入れるというのは私の造語です。横軸の時間経過に対する縦の串なので)
文字情報だけではよくわからない概念を捉えるには図化することが有効です。具体を抽象化する作業ともいえます。何事も概念をはじめに理解することが大切ですね。