「次からは気をつけます」
ミスをした時の最後の締めの言葉としてよく耳にします。
人間だからミスはあります。でも同じミスをもう一度するのは避けたいところです。
「次からは気をつけます」は、気をつけてなかった、つまり不注意だったことを理由にしています。
ミスの原因が不注意であったと考えると、ミスの発生は注意力に依存することになります。そして、ミスの発生が注意力に依存しているとすると、年齢、経験、専門、立場等を問わず、注意力が低い人はミスをしやすいということになります。
ミスが少ない又は出さない人は、いつも細心の気を配っているのでしょうか?
訓練によって注意力が高められると考えることもできますが、ミスを発生させないように注意力を働かせ続けることはとても疲れることで、持続性はなく、生産性は低くなります。しかも、体調や環境によっても注意力は変化するので、寝不足や締め切り間際の焦り等の影響を受けると、注意力の低い人になりがちです。このように注意力に依存することは、文字通り力任せのミス防止策と言えます。
多くの仕事をこなしながらもミスが少ない、出さない人は何らかの工夫をしているはずです。
つまり、「気を付けよう」「徹底的にチェックしよう」という精神論だけでは、ミスの再発は防げないと考えた方が良いのです。
1.ミスが発生した原因
ミスの原因は不注意以外になかったのか?
人のミスはヒューマンエラー。(株)日本能率協会コンサルティング(JMAC)ではヒューマンエラーを「目標を実現するために想定された行為」から外れた行為と定義しています。
さらに、ついつい・うっかり型エラーとして「記憶エラー」「認知エラー」「判断エラー」「行動エラー」、あえて型エラーとして「違反」に分けています。
ついつい・うっかり型エラーの具体例について私なりに整理してみます。
①記憶エラー:忘却、記憶力低下、情報や記憶の誤り、曖昧な情報や記憶等
②認知エラー:無意識、認知力低下、見落とし・見間違い、聞き逃し・聞き間違い、伝達不足等
③判断エラー:判断力欠如、判断力低下、経験不足、無知・不勉強、判断基準の未定義等
④行動エラー:処理能力不足、手順漏れ・手順間違い、確認不足、注意力低下、慢心、放置等
このように整理すると不注意は行動エラーと言えそうです。
①~④を機械に置き換えてみると①はメモリやハードディスク、②はセンサーや通信装置、③はCPU(演算)、④はCPU(制御)に該当します。人間も機械も処理能力を超えると健全さを失います。
ミスが与える影響の大きさを知っていて放置すると、あえて型の違反となる可能性もあります。
2.再発防止~ミスの原因別対策
記憶・認知というインプットで「ミスを入れない」、判断や最終化に向けた処理・行動プロセスで「ミスをつくらない」、アウトプットされた結果を納める際に「ミスを出さない」という時系列で段階毎のミス防止行動を整理することができます。
JMACは、ヒューマンエラーの防御策を組み込むこと(認知・判断・行動といった、人のエラーモード別に対策をとる)についても触れており、次のような対策視点を示しています。
<ヒューマンエラーに関連する4つの対策視点>
・人が関わる余地を無くす、少なくする
・要因を無くす、発生を抑える
・エラーをできなくする、しにくくする、見つけて対処する
・不具合又は発生する被害を最小にする
再発防止のためにはまずは環境の改善です。心身ともに健康であり、十分な時間を確保することが大前提です。しかし、健全な状態が保てない場合も想定した対策も考える必要があります。
私なりに再発防止策を原因別に整理してみます。
①記憶エラー:情報の記録と保管、時系列管理。曖昧さの排除。
(具体例)文字、画像、音声情報活用、データベース化とアップデート、情報の確認等。
②認知エラー:見間違えや聞き間違えの防止。情報共有の習慣化。
(具体例)識別の工夫、認識の共有、伝達と返信、確認行動等。
③判断エラー:判断基準の明確化。主観の排除。学習・教育、判断の自動化等。
(具体例)フローチャートや比較表の活用、理由付け、論理的説明、数値化や数式化等。
④行動エラー:注意力や能力に依存しない仕組み作り。段階確認、ダブルチェック。
(具体例)標準化、マニュアル化、チェックリスト活用、抜き打ち検査、第三者確認等。
再発防止のためには、当事者の能力だけに依存することなく、想定された行為を外さないための仕組み化やルール化が有効であることは明らかです。この仕組み化やルール化はプログラムとなり、作業は段階的に機械に置き換えられていくと考えます。
改めて品質マネジメントシステム(QMS)の実践が有効であることがわかります。
3.誰が仕組みやルールを作るか?
仕組みやルールは仕事の内容によって様々なものとなります。
これを誰が作るか。
情報の正しさを判別できる人、正しく判断できる人等が上げられますが、過去にミスやヒヤリハットを経験した人やそれに気がついた人、是正処置を講じた人も含めて多面的な視点から仕組みやルール作りに取り組む必要があると考えます。失敗事例の共有もその一つです。
機械化が進むと、人間は仕組みやルールを作るだけになるかもしれません。
4.人が関わる余地を無くせるところはどこか?
例えばエクセルでは入力回数を減らすことや、入力規制や入力規則の設定、シート保護、エラーメッセージの表示等があります。その他にはAIによる画像認識、RPAによる自動化などが考えられます。人が関わる余地を無くすことを考えるのも人です。見間違えが多いことや確認漏れが多いこと等を突き詰めていく必要があるため、あらゆるレベルの人が関わることが望ましく、実践する当事者の立場に立って効果を検証することも重要です。
5.まとめ
私は個人として、組織として品質マネジメントシステムの実践やマニュアルの見直し、外部審査対応等にも関わってきました。ミスの再発防止に個人レベルで取り組むことができる人もいますが、そうでない人は仕組みやルールを活用した有効な再発防止策を講じることができません。よって、個人レベルと組織レベルの両面から品質マネジメントに向き合い、主体性を持って取り組むことが大切です。また、品質マネジメントを理解・実践すると、仕事だけでなく、日常生活、人との信頼関係の構築、個人学習や資格試験の勉強にも生きてくると思います。
「気をつけます!」「努力します!」という声を聞いたら、どうかこの話を思い出してください。