技術士二次試験の筆記試験の結果は、A、B、Cの三段階で評価されます。
Aは60%以上、Bは60%未満40%以上、Cは40%未満です。
必須科目ⅠはA評価が合格の条件。選択科目はⅡとⅢの合計得点が60%以上で合格です。
今回は、筆記試験B評価の復元解答を振り返り、A評価レベルに改善するところはどこか?について、ケーススタディしていきます。
1.合否の分かれ目
選択科目(午後の問題)で合計でAを取れれば合格ですが、ⅡがA、ⅢがBで合計Bで不合格となるケースもあります。技術士試験を指導している中でそのようなケースを目の当たりにしていきました。
合否を分けるポイントは大きく以下の3つであると考えられます。
<合否を分ける3つのポイント>
①問われていることに解答しているか
②問題の前提条件を無視していないか、前提条件を理解できているか
③必須ⅠおよびⅢの設問(3)の解答に違和感を感じないか
③については、解答を読んでいて「それって最初から分かっているコトでは?」と思う時に違和感を感じます。
必須Ⅰ、選択Ⅲの設問(3)では、
「解決策を実行しても新たに生じうるリスク」
「解決策に関連して新たに浮かび上がってくる将来的な懸念事項」
「解決策を実行して生じる波及効果」
など(以下、新たなリスク等)を取り上げて、その対策を示す必要があります。
解決策を踏まえて慎重に考えて新たなリスク等を取り上げる必要がありますが、相応しくないと考えられる新たなリスク等には次のようなものがあります。
・既に問題文に書いてあること。(明らかに新たなものではない)
・設問(1)で取り上げた課題の背景となっている問題。(ロジックがループする)
・解決策と直接結びつかないこと。(解決策を実行しても・・・等の前提を無視している)
ある受験者の復元解答を確認し、上記について懸念があることを指摘したところ、結果はB評価でした。しかし、このことを理解して翌年度には無事合格しています。
(この点だけが要因ではないと考えられますが、少なくとも改善すべき要因ではあった思います)
まずは、合否を分ける3つのポイントをしっかり押さえておきましょう。
もちろん、この3つは基本的なことであり、これ以外にも「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」を押さえて、キーワードもしっかりと入れていくことが大切です。
解答するのが楽しくなる理想的な状態は、出題者が求めている解答が頭の中に浮かんだり、問題文を作成した背景にありそうな国等の政策等を思い浮かべたり、等ができることです。
しかし、問題文を見て「いける!」と思った時こそ注意が必要です。
次のケーススタディではその悪い例についても示します。
2.B評価を分析する
さて、実際にB評価の解答を使ってケーススタディしていきます。
以下の例を見ていきましょう。
これは令和5年度 建設部門(都市及び地方計画)の筆記試験の結果で、選択科目のⅢがBとなっています。
初受験でしたが、受験者は全てA評価を得る自信はあったようです。
特に選択科目Ⅲは問題文を読んで「いける!」と思い、すらすらと書いたとのこと。
いったいなぜB評価となったのでしょう?
問題文 令和5年度 建設部門(都市及び地方計画)

復元解答
設問(1)解答
1.多面的観点からの課題抽出とその内容
(1)大都市における緑化率の向上
産業や経済が集積する大都市は多くのエネルギーを消費する一方で、コンクリート等のグレーインフラに覆われており、熱反射の抑制を図るために、水循環、熱循環の改善が課題となっている。都市公園や緑道等の都市の緑地はこれらの改善に寄与するものであり緑化率の向上が課題となっている。
(2)地方都市における緑化
地方都市は市街地周辺に田園や里山が残されていることから比較的緑地率は確保されているものの、一人当たりのCO2排出量は、東京よりも山梨や山形等の地方都市が多い傾向にある。このため、市街地の緑化を図りつつも、自動車依存社会から脱却し、地域公共交通の利用を高めていく取組みが課題となっている。
(3)地区単位や私有地における緑地
緑地は公有地だけでなく、民間事業者の敷地や個人の敷地にも存在する。このため私有地における緑地を維持・保全を支援する制度の活用が課題である。
<解答の分析>
B評価を受けて、すぐに復元解答と問題文を照らし合わせてみると、やってしまったなという過ちがすぐに見つかりました。3つのポイントの「②問題の前提条件を無視」です。
この問題の前提条件として、「大都市近郊の都市」というところを見落としており、大都市、地方都市、地区単位や私有地を3つの観点(切り口)として取り上げ、それぞれの課題を列挙していました。
「いける!」と思い冷静さをなくしてしまい、大事なところを見落としてしまった悪い例です。
<解答の修正>青ハイライトが修正箇所
解答の修正案は以下のとおり、大都市を市街地、地方都市を郊外に置き換えれば「大都市近郊の都市の内部における課題」とすることができ、前提条件を満たす形に改善できます。
1.多面的観点からの課題抽出とその内容
(1)市街地における緑化率の向上
産業や経済が集積する市街地は多くのエネルギーを消費する一方で、コンクリート等のグレーインフラに覆われており、熱反射の抑制を図るために、水循環、熱循環の改善が課題となっている。都市公園や緑道等の都市の緑地はこれらの改善に寄与するものであり緑化率の向上が課題となっている。
(2)郊外における緑化
郊外は市街地周辺にあり田園や里山が残されていることから比較的緑地率は確保されている。しかし一人当たりのCO2排出量は、自動車利用が多い郊外の方が多い傾向にある。このため、郊外の緑化を図りつつも、自動車依存社会から脱却し、地域公共交通の利用を高めていく取組みが課題となっている。
(3)修正なし
恐らく、これが減点となりB評価になったと考えます。
せっかくなので、設問(2)以降も復元解答を載せておきます。
復元解答
設問(2)解答
2.最も重要と考える課題と解決策
地球温暖化ガスの総排出量は大都市が多いことから、最も重要な課題を(1)市街地大都市における緑化率の向上を取り上げ、以下に解決策を示す。
(1)グリーンインフラの活用
緑地は古くから防災、防火、防音など都市を守るために利用されてきた。都市基盤の整備にあたってはグレーインフラの強靭さと、緑地が有する大気の浄化、気温上昇の抑制、雨水の浸透・貯留等のしなやかなグリーンインフラとして機能について、双方の特性を理解のうえバランス良く活用することが効果的であり、計画的な都市公園や緑道の整備、壁面や屋上緑化が推進によって都市緑化を図る。
(2)生物多様性の確保
都市部における生態系の形成は、都市の生物・植物を持続的に保全するために不可欠であり、水辺、市街地、林地等を含むエコロジカルネットワークを形成するために、連続した緑地を確保することが効果的である。
(3)生産緑地の維持保全
都市における農地は貴重な緑地となっている。法改正によって特定生産緑地に指定されることで、10年毎の延期が可能となったことから、継続的に生産緑地を維持保全し、新たな開発を抑制することが望まれる。アフターコロナの多様な生活様式の浸透もあり、都市における営農活動への関心も高まっていることから、引き続き生産緑地を維持保全していく。
(4)緑の基本計画に位置付け
都市公園の整備を緑の基本計画に位置付けることで、計画的に緑地率を計画的に高めていくことが可能となる。
復元解答
設問(3)解答
3.新たな懸念事項とそれへの対策
(1)維持管理・コストの負担増加
グレーインフラに比べて、グリーンインフラは維持管理に、専門的な知識や手間、コストを要する傾向にある。これまでのように行政の造園職だけで対応することは難しく、行政の予算にも限りがある。
(2)対策案1:維持管理の担い手確保
行政による維持管理は限界があることから、住民等による維持管理を積極活用することが解決策となる。具体的には、エリアマネジメント制度の活用、立地誘導促進施設協定の活用など、地域住民やまちづくり団体による自助・共助を引き出していくことが効果的である。
(3)対策案2:民間企業による整備・管理
都市公園の整備や維持管理を民間企業に委ねていく方法として、包括的民間委託、指定管理者制度、公募設置管理者制度の活用がある。収益施設により得た利益を公園整備に充てることで行政負担の軽減が可能となる。
(4)解決策3:教育・啓発
都市公園や緑地を地域の小中学校の教育の場として、また大学の研究のフィールドとして活用することは、自然環境の保全に対する理解・啓発を図ることができるとともに、緑の保全の担い手となる効果もあり、住民のふれあいや地域の活性化にも寄与する。
以上
3.まとめ
いかがでしょうか。このような分析をするためにも解答を復元しておくことを強くおススメします。
復元解答がA評価であれば後輩等へのお手本として活用することができますし、B評価以下ならこのような分析が、自分または指導者によって可能となります。
さて、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、このB評価を得たのは何を隠そうこの僕です。
これまでB評価があるのに合格ということはなかったので不思議な感覚でした。
正直なところ「え?」というところでした。(頭の中:この俺が⇔うぬぼれるな)
しかし、選択科目Ⅱの得点がよく、合計で60%以上を取れたので救われました。
得点を取れるところ(※)で取っておいた方が良いというのを実感しました。
(※選択科目Ⅱ-1は基本問題、選択科目Ⅱ-2は実務的な問題で比較的得点がとりやすいと思います。)
そして、問題文をみて「よし、いける!」と思った時こそ、前提条件の見落としに注意が必要なことも付け加えておきます。(これは問題文と解答のそれぞれの指差しチェックが効果的かと思います。)
B評価のヤツが指導なんてするなよ!という声もあるかもしれませんが、B評価をA評価に改善する方法を探ることができれば、むしろその能力を発揮して良い指導者になるのではないかと思った次第です。
B評価以下をとっても、これを糧にしてリベンジを果たしましょう!